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会長インタビュー


令和6年(2024年)10月

琉球古武術の今日と明日

インタビュアー 当会フィンランド支部 師範 イルポ・ヤラモ

古武術の稽古は、沖縄の伝統的な武器を学び、古い型に含まれるスキルと戦略を保存する ことに焦点を当てています。沖縄の武術を学ぶということは、沖縄の歴史についても学ぶことを意味し、 おそらく自分の家族よりも古い名人とその伝説を知るようになるに違いありません。 道場での指導以外にも、インターネット、本、YouTubeなどには多くの情報があります。 しかし、すべての情報が実際の真実に基づいているわけではありません。 信頼できる情報を得るために、訪れるのに良い場所が http://www.ryukyukobujutsuhozonshinkokai.jpです。
古武術の伝統を理解し、尊重することは、現代において古武術を稽古する人にとって不可欠です。 結局のところ、それが通常、人々が最初に伝統的な流派に入門する主な理由です。 伝統や過去のやり方に興味がないのに、なぜ伝統的な組織に参加するのでしょうか? これは明白なはずですが、西洋人は物事を「改善」する傾向があります。 しかし、古武術を技術や精神で劇的に変えると、それらはもはや古武術ではありません。
しかし、芸術や組織は、伝統や過去の物語だけでは成り立たない。私たちは21世紀に生きており、現代において古武術を稽古する人の背景や考え方は、昔の名人のそれとは異なります。琉球古武術はもはや沖縄の秘密の武芸ではなく、公然と国際的に実践されています。今日では、沖縄よりも西洋の方が武術に興味を持つ人が多いです。多くの道場では、男性と同じ数の女性が列に並んでいます。100年前はそうではありませんでした。ですから、現在と未来に目を向けるのには十分な理由があります。私たちは今どこにいて、どこへ向かおうとしているのか?

琉球古武術保存振興会 会長・免許皆伝範士である井上貴勝が、インタビュー形式により古武術界の現状について見解を述べています。

―イルポ
琉球古武術の段位は全て日本で登録されています。琉球古武術保存振興会には何人の黒帯レベルの修行者がいるのか教えてください。

―井上
1950年代に井上元勝先生が道場を開設されて以来今日までの門下生で黒帯【初段】に登録された修行者は約1,000人です。

―イルポ
師範級の指導者はどうですか?

―井上
師範級の指導者は約30名です。

―イルポ
女性に与えられる最高ランクは何ですか?

―井上
女性も男性と同じランクです。すなわち範士です。 現在、当会の女性に授与されている最高位は4段です。日本人女性も外国人女性もこのランクに達しています。

―イルポ
ここ20年、30年の間に、琉球古武術へ参加する女性が増えてきました。しかし、日本では、古武術はまだまだ主に男性によって行われていると思います。この傾向についてどう思いますか?

―井上
広義の古武術、すなわち日本の古武術には剣術、柔術、薙刀術など計80流派ほどが現存し活動を続けております。薙刀術は女性が主体です。流派により異なります。
当会の場合、日本で現在活動されている女性は10名前後です。総本部には現在5名の女性が稽古に励んでおります。うち3名は横浜カルチャー教室で学んでいます。
日本では人生100年の時代にあって、生涯学習を目指す日本人は老若男女問わず学習の意欲が高いです。武道についていえば、直接道場に入門するのは気が引けるが、カルチャー教室ならもっと気軽な気持ちで体験できることがきっかけとなっていると思います。横浜カルチャーでは棒術の基本のみ紹介しています。もっと勉強したいという方は、当会に入門して渋谷の総本部道場で稽古されております。
琉球古武術と空手術は両輪の関係にあります。琉球古武術を学ぶ方が増えてもよいかなという思いはあります。空手の指導者におかれても、競技だけでなくその源流にある琉球古武術(武器術)は両輪としてお導き下さる指導者の存在は有難く思います。
古武術は護身術です。老若男女年齢は問いません。総本部道場では86歳の男性、田中進指導員が頑張って居られます。
平信賢先生、井上元勝先生の時代にも女性門下生がおられました。男女の区別関係なく琉球古武術に関心を持たれ純粋に一生懸命に頑張っておられた皆様を大切にされておられました。

―イルポ
井上会長は当会の最高位の範士の称号をお持ちですね。大川先生も最近、その称号を授与されました。当会に範士の称号を持つ指導者はもっといますか?

―井上
はい、当会においては新貝勝範士もおられます。新貝氏も大川氏も先代の許に入門されて70年近くになります。自身の修業に励み、後進の指導に努めておられます。生涯を捧げられる気持ちに感謝しております。

―イルポ
古武術は現在、日本以外の多くの国で実践されています。現在、琉球古武術保存振興会に加盟している国はいくつあり、今後さらに多くの支部が加盟する予定ですか?

―井上
海外には20カ国に正式な支部があります。 アイルランドは今年6月、当会の支部として受け入れられました。 アイルランドの支部長はクリント・ウァストヘイゼン氏です。 私たちの組織に新しい支部ができたことを非常に嬉しく思います。

―イルポ
国際セミナーは何年も前から開催されており、2024年にはオランダで開催されます。次回の国際セミナーはどこで行われますか?

―井上
井上元勝先生御発意の国際セミナーは1990年、第1回を日本の箱根で開催しました。 オランダでの国際セミナーで第12回目となります。 13回目は2026年10月、ギリシャ(支部長:ニコラオス・ツパキス)で開催されます。 ツパキス支部長はアテネの郊外の会場をすでに予約され準備を着々と進めておられます。

―イルポ
海外や日本で古武術会員が参加できるイベントはありますか?

―井上
海外においては、各国支部が主催するセミナー・演武会や、現地における日本大使館、日本人会などとの交流を通じて演武会など様々な交流を実現しております。
日本でも同様です。総本部、各支部の定例稽古を基調に、毎年3月総会の後に1泊2日の国内セミナーを開催して参りました。コロナのため中止しておりましたが、いずれ再開したいと考えております。
当会が加盟しております古武道2団体(日本古武道協会、日本古武道振興会)を通じまして演武行事が毎年計12回ございます。参加資格はその古武道団体の会員であることが必要で、入会金、年会費の支払いが必要となります。そのほかに日本武道館が毎年3月頃に外国人留学生等対象国際武道文化セミナーを開催されておられます。3日間の日程で千葉県勝浦市の日本武道館研修センターで行われております(参加費は無料)。10数年前、マイケル・バック氏(現オーストラリア西コースト支部長)が約3年渋谷の総本部道場に通われていた期間内に井上の紹介で参加されたことがございました。

―イルポ
国際セミナーは琉球古武術保存振興会の重要な活動です。当会は他にどのような分野で活動していますか?
当会と理事会のメンバーは毎週または毎月何をしていますか?(例:会議、デモンストレーション、通信、当会の運営全般など)

―井上
当会の規約第4条及び第5条に定める(目的)(事業)を踏まえ、毎年、具体的活動方針を次のように定めて活動をしております。
(1)本部、支部の術技向上、情報交換、ネットワーク強化に努める。
  @国際セミナーの開催実現に向けて協力・団結を図る。
  A当会ホームページ、ミニかわら版の継続・フォローを図りながら、
   国内外に向けて当会の存在・活動状況を情報発信する。
  B級・段位別教育課程に基づき技術標準化・向上に努める。
(2)本部、支部問わず会長の許可の基に必要に応じて講習会を開催するとともに、
   演武大会等に参加し、当会の目的である保存振興に努める。

会議:毎年3月に総会、理事会、常任理事会を開催します。内容により逐次理事会を開催します。
総会での集合写真
コロナ以前の総会より第1列左から(増淵淳一、佐野寿龍、新貝勝、井上貴勝、大川昌春、川ア博正、吉田實、遠山衛)

総会での集合写真
コロナ以前の総会より第1列左から(大川昌春、新貝勝、顧問:山口剛史先生、井上貴勝、常任相談役:小林元先生、 井上安代(最高顧問)、橋本桂子(安代長女)、遠山衛

演武会:加盟する2古武道団体(日本古武道協会、日本古武道振興会)の演武行事として年に12回の演武会に出場の機会を頂いております。
日本古武道協会を通じては日本武道館で開催される日本古武道演武大会、海外派遣事業ではオーストラリア、米国、キューバ、メキシコ、スペイン、フランスに武道代表団の一員として参加をさせて頂きました。
季刊誌ミニかわら版は、1995年からスタートした日本会員向け会報誌です。稽古に参加できる会員、仕事等で参加できない会員を含め、当会の活動状況を3か月ごとに紹介し情報を共有する機会としております。
役員は日本の支部長、国内外の師範を中心に構成しております。海外の役員には南アフリカのエドワード・ジャディン師範、フィンランドのイルポ・ヤラモ師範に就任いただいております。
定例稽古を基調に、支部単位でセミナー・オープンセミナー、またカルチャー教室を通じて琉球古武術の指導・紹介に努めております。
国際セミナーは1980年代、先代井上元勝師が、これから国内外に支部も増えてくる。グローバルファミリーが集結し心技に有意義な交流を図る場を設けたいという発意で1990年にスタートした国際交流行事です。大切に継続して参りたいと考えております。

―イルポ
琉球古武術保存振興会以外にも、沖縄には古武術のグループがあります。彼らの中には、ソーシャルメディアで非常に活発に活動し、たとえばYouTubeで自分の素材をオープンに発表している人もいます。これに反して、ソーシャルメディアではあまり多くの当会の型や組手は見つかりません。これは当会の公式方針ですか?
稽古は、指導者から生徒へ、そして実践的になる古い方法で行われますか?

―井上
総本部のホームページを通じて当会の存在を世界に発信することはさせていただいておりますが、型や組手の詳細を動画で紹介することはいたしておりません。 井上元勝先生は「武術は内に蔵して外に示すべからず」という先人の教えを大切にされておられました。すなわち、「自分の強さを表に出さないこと。黙々と稽古に励み実力を培うこと」、いざとなった時は全ての力を以って護身につくす。道場での稽古を大切に修行せよと常々申されました。古武術の保存振興の在り方に師の教えが根底にありますことは確かでございます。

―イルポ
琉球古武術保存振興会は他の古武術団体と協力関係がありますか?

―井上
沖縄剛柔流(東恩納盛男先生)が日本古武道協会に加盟されておられます。様々な演武会でご一緒の機会を頂いております。
また、琉球古武術については、井上元勝先生、赤嶺栄亮先生ご他界後、西暦2000年にご令息赤嶺浩氏と井上貴勝が東京で面会し交流の機会を得ました。西暦2002年には新貝範士と井上貴勝の2名で沖縄を訪問し、赤嶺浩氏、金城一史氏と交流いたしました。その後、今日まで浩氏とは毎年新年のご挨拶を行っております。浩氏と貴勝は同年齢です。紳士であられます。
久米島で開催した国際セミナー2019の時に、空手・古武術の演武会を開催しました。その節に、久米島の方々による琉球古武道のご演武を頂戴いたしました。そのなかに赤嶺先生の御門下がおられました。お招きをして交流をいたしました。
なお、前述の通り当会は日本古武道協会と日本古武道振興会という2つの古武道団体に加盟して居ります。
日本古武道協会[Nihon Kobudo Kyokai[Japan Kobudo Association]:
https://www.nihonkobudokyoukai.org/
日本古武道協会の加盟流派として、日本武道館における全国演武大会への出場、海外における演武行事への参加、日本武道館が毎月発刊する月刊誌「武道」に活動の様子を掲載させて頂く機会を頂いております。
日本武道館の研修センターが千葉県勝浦市にあり、同センターで当会の国際セミナー2010を開催したこともございます。
日本古武道振興会Nihon Kobudo Shinko Kai [Japan Kobudo Promotion Society]:
https://kobushin.jp/
昭和10年に設立された日本で最も古い古武道団体です。東京、名古屋、京都など各地の神社・神宮の奉納演武会の機会を賜り出場をさせていただいております。

―イルポ
お父様の井上元勝先生が古武術に関する本を何冊か書かれて、それが今でも武術の指針になっています。古武術に関する新しい書籍の予定はありますか?

―井上
空手術・体術、琉球古武術ともに、先代から教授された詳細な資料(絵・図を含む)、平先生から先代を通じて継承している資料、そして写真関係資料などA4にして約5,000枚の資料を保管しております。その中の資料は引き続き私達が学ぶ武術の指針になっています。

―イルポ
多くの留学生の夢は、日本に来て、日本人の先生のもとで型や組手を学ぶことです。彼らにどのようにアドバイスしますか?
まずは自分の先生に訪問の許可をもらって、それから支部長から連絡が来るのが通例だと思います。外国人の方には東京の総本部道場での稽古を勧めますか、それとも他の道場でも稽古に参加できますか?

―井上
自分の先生に訪問の許可をもらって、それから支部長から連絡が来るのが通例です。
自分の先生に訪問の許可を取っていない場合は受付けません。
渋谷の総本部道場だけでなく、各地の支部道場で稽古することも新たな交流の経験になります。
総本部・各支部の定例稽古スケジュールは、総本部のホームページに掲載されております。それを参考に来日計画を立てることが出来ます。
稽古が終了した後は、来日される門下生の先生に稽古内容等の報告書を作成しフィードバックしております。

―イルポ
外国人の訪問は、受け入れ先である日本側で特別な手配が必要になることが多く、外国人訪問者が日本人稽古参加者と日本人指導者との貴重な時間を奪うことになります。これは問題だと思いますか?

―井上
武術を通じて人生の旅をしております。海外の会員と交流することは人生の貴重な経験のひとつです。嬉しい事であり学びの機会です。貴重な時間を奪われるとかは考えません。

―イルポ
井上元勝先生のもとで研修を始めた先輩指導者は、今は70代、80代です。前世代の足跡をたどる準備ができている有望な若い指導者がいますか。

―井上
国内外に有望な指導者が成長しております。日本にもいます。 これも、国内外の支部長が次代を見据えて後進の指導育成を図ってこられたこと、またそれに応えて業務繁忙の中、たゆまぬ精進を重ねている有望な次代を担う指導者の心と努力に感謝しています。井上貴勝の継承者を中心に国内外のリーダーが結束し使命に尽くしていってほしいと願います。

―イルポ
古武術を真剣に学びたいと思っている若い古武術の門下に一言お願いします。

―井上
広義の古武術は明治時代より以前から継承されている武術です。何百年の歴史を有する流派もおられます。剣術、柔術、薙刀、杖術などなどで計80流派があります。日本文化です。いずれのご流派も教えは型に集約されております。型は先人の心技の業績です。伝統の意味を正しく理解し体得することが大切です。
その中で、琉球(沖縄の以前の名称)の古武術は徒手空拳術と得物術から構成され、現在前者を空手術、後者を琉球古武術と称しております。琉球古武術は8種の武器から構成される40余の伝承型・組手術を伝承しております。
学んでいく上で大切な点のひとつとして次の点を申し上げたいと思います。
・武器が無ければ武器の勉強ができないとは思わないでください。武器を持っているとイメージして対空で勉強はできます。
・一生懸命稽古していると質問がでてきます。師に確認してください。その理解が次のステップにつながります。
・演武会などがあれば前向きに参加して、自身の稽古に活かしてください。平素の稽古の目標になります、励みになります。
・日本各地で毎年開催されます演武会には様々なご流派の演武を観覧することができます。良い機会です。
繰り返しになりますが、継続は力なりです。続ければ続けただけの成果が出て参ります。
上位になればなるほど、勉強をすることも多く、下の者の何倍も稽古しなければなりません。慢心せず、常にハングリー精神をもってチャレンジしてください。
徒手術と得物術は両輪であること。徒手術の要素を武器術に活かし、武器術の要素を徒手術に活かし琉球武術という伝承文化への理解・体得が深まります。
武術は、真の実力とその謙虚な心を培うことを教えます。日々弛まぬ修行に励み、戦いを避け平和を求める道であります。古武術の心身の精進の成果を活かして、日々の生活に調和を見出すことができれば幸いです。


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